最近、空港のことを考えたり、飛行機を見上げる機会が増えた。
宮古島への旅、作品のこと、そして今回の舞台で描かれる「空港」という場所。
そんな中で、ふと一つの記憶が、静かに蘇ってきた。
今から40年ほど前のこと。
私は東京藝術大学の学生で、4年間付き合っていた恋人がいた。
卒業を間近に控えたある日、彼は決断した。
——たった一人で、ミラノへ留学すると。
当時22歳か23歳。
今思えば、その決断力と行動力は、本当に見事だったと思う。
結婚の約束があったわけではない。
だから私が一緒についていく選択肢もなかった。
ただ、彼は前に進み、私は日本に残る。
それだけのことだった。
見送りは、成田空港だった。
1978年に開港して数年のまだどこか無機質で、今ほど華やかではない空港。
私にとっては、初めて足を踏み入れる成田空港でもあった。
彼の友人たちも何人か来ていて、
私は終始、笑顔でいることを決めていた。
泣かない。
重たい空気にしない。
彼の新しい旅立ちを、明るく送り出したい。
それが、私なりの選択だった。
搭乗口へ向かう背中を見送り、
手を振り、
「いってらっしゃい」と声をかけた。
その瞬間まで、涙は一滴も流さなかった。
帰りのリムジンバス。
窓の外を流れていく景色。
一人になったその時、
張りつめていたものが、静かにほどけた。
家に帰ってから、しばらくの間、私は泣き続けた。
誰にも見せなかった涙。
空港では決して流さなかった涙。
最近になって思う。
空港という場所は、
こうした「人生の節目」を、
何度も、何度も、見つめてきた場所なのだと。
旅立つ人。
見送る人。
迎える人。
言葉にできない思いを胸に抱えながら、
それぞれが、それぞれの時間を生きている。
そして、そのすぐそばには、
客室乗務員をはじめ、空港で働く多くの方々がいる。
彼らはきっと、
泣かないと決めた人の顔も、
笑顔の奥にある寂しさも、
すべてを承知の上で、静かにその場に立っているのだろう。
今回の舞台で、
客室乗務員役を演じるのは、
宇都宮市出身の女優、岩瀬顕子さん。
私はCA役ではない。
けれど、空港で「見送る側」として、
人生の大きな別れを経験した一人だ。
だからこそ、
空港で働く人たちへの敬意と感謝を、
今、あらためて強く感じている。

空港は、ただ人が移動する場所ではない。
そこには、
言葉にできない祈りや、
覚悟や、
未来への希望が、確かに存在している。
あの日、泣かなかった私が、
今になってその記憶を思い出したのは、
もしかしたら、
この舞台が「人生の途中」に立ち会う物語だからなのかもしれない。
空港で働くすべての方へ。
そして、見送る人、旅立つ人、迎える人へ。
心からの感謝を込めて。
朗読ミュージカル
「宮古島旅情〜君の声が聞きたくて」
2026年1月11日 天王洲アイルKIWA にて上演。

