宮古島に到着したその日の夜、突然の高熱に見舞われた私は、
翌朝、人影もまばらになったビュッフェ会場へ遅れて降りていきました。
熱のせいで頭がぼんやりしながらも、朝の光が柔らかく差し込むその空間の静けさが、
どこか夢の中のように感じられました。
ふと視線の先に、ひとりで食事をしている男性の姿が目に入りました。
年の頃は50代半ばほど。落ち着いた雰囲気で、どこか寂しげな背中。
向かいの席にはもう一枚のトレーとその上に珈琲が置かれていたので、
「お連れの方がいらっしゃるのかな」と思いましたが、
いつまで経っても誰も現れませんでした。

──リゾートにひとりで来る男性って、珍しいな。
そんなことを思いながらも、熱で朦朧としていた私は、その場面をすぐに忘れてしまいました。
滞在のほとんどをホテルのベッドで過ごし、気づけば帰る日。
ようやく少し熱が下がった朝、再び朝食会場へ降りていくと、
なんと、前よりも近い席にあの男性が座っているのが目に入りました。
「あっ、あの方、まだ滞在されていたんだ…」
そして、思わず息をのんだのです。
向かいのトレーの上には、珈琲とヨーグルト。
その横には、小さな写真立てが置かれていました。
そこには、聡明そうに微笑む女性の写真が――。
彼の前にあるその静かな「席」は、もう二度と戻らない誰かのための場所だったのでしょうか。
海風が吹き抜ける朝の光の中で、私はただ、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていました。

次回【宮古島旅情への道③】では、この朝の光景がどのように物語の核へと繋がっていったのかを綴ります。
11月1日(土)12:00 いよいよ発売開始!!



