2026年、4月1日。
新年度の始まりという節目の日に、
私の元へ、目も眩むほど美しい贈りものが届きました。
箱を開けると、そこには鮮やかな赤と優しいピンクの正絹のお着物、
そして一点の曇りもない真っ白な長襦袢。
これは、約5年前に和歌山の舞台で上演された、
有吉佐和子原作『石の庭』で私が身に纏った衣裳です。
室町幕府の将軍・足利義政の側室として嫁ぐ、細川勝元の娘「白妙」役。
悲恋の女性ですが、凛とした生き様がまさに有吉作品のヒロイン真骨頂。
私にとって、忘れられない大切な役のひとつです。

実は、この舞台に立つまでの数年間、私は度重なる病に見舞われていました。
「もう舞台に立つことはおろか、人前に出ることもやめよう」
そう心に決め、別の道を歩み始めていたのです。
けれど2021年、運命に導かれるようにこの作品で舞台へと呼び戻されました。
実は、この『白妙』という役には不思議な縁がありました。
舞台のお話をいただく少し前、私は家系図を調べ、今は亡き祖母の人生を辿っていました。
驚いたことに、白妙の生き様は、私の祖母の運命とあまりにもそっくりだったのです。
その家系図制作の3ヶ月前には、私は初めて浅利慶太先生のお墓参りに伺いました。
病に襲われ、表現の道を諦めかけていた私。
きっと、お墓の前で手を合わせた私を見て、浅利先生が祖母と一緒に
『もう一度、舞台に立ちなさい』と背中を押してくださった。
この役は、お二人が私に与えてくださったギフトなのだと、心から信じています。
それでも23年ぶりの大舞台、そして人生初の和物芝居。
戸惑いも不安も多々ありましたが、あの時、勇気を出して一歩踏み出した経験は、
今では私の一生涯の宝物となっています。
この大切な衣裳を届けてくださったのは、
劇団四季時代、浅利先生の右腕として現場を支え続けてこられた杉田静男さんです。
若くて才能ある俳優が溢れる中で、
あの日、私に『白妙』という役を託してくださった杉田さん。
23年ぶりの舞台という私の背中を、静かに、けれど力強く押してくださいました。
杉田さんが届けてくれたこの衣裳は、浅利先生からの、
そして祖母からの『言葉のバトン』を預かった証。
杉田さん、本当にありがとうございました。
私はこのバトンを手に、新しいステージへと向かいます。
……それにしても、宝物としてしまっておくには、あまりに勿体ない!
この衣裳が私にそう語りかけているような気もします。
どうやら次は、この着物を活かした
「和物の朗読ミュージカル」を作らなければならないかもしれません(笑)
人生は、時に遠回りをするけれど。
手放したからこそ、本当に大切なものが、より鮮やかな姿で戻ってくる。
それは必要な遠回りなのかもしれませんね。
4月1日のサプライズ。
この美しい「白妙」の衣裳とともに、
荒川久美江の第2幕、いよいよ幕開けです。

皆さま、どうぞよろしくお願いします。

